音楽は人生と同じだと思います。必ず始まりがあって、必ず終わりがある。僕たちに出来ることはその限られた時間の中でどうやって人生を生きるかを選ぶことしかありません。一度生きた時間はどうやってももう一度生き直すことは出来ません。僕の音楽には西洋音楽に強く根付く再現部(一度聴いた音楽がもう一度同じ形で現れる)がほとんど存在しません。恋人と過ごした甘い一時も、苦悩の中で過ごした長い夜も、今になってもう一度その瞬間を生きたいと思っても、それは叶わないことです。 もう数年間こういうスタイルの音楽を書いていますが、特にこれが強く表れたのはPercussion Suite(打楽器組曲)です。アメリカに来て随分仲良くなった双方打楽器奏者の日本人とアジア系アメリカ人のカップルの為に書いた曲ですが、沢山の種類の打楽器を二人の奏者が演奏するというちょっと普通とは違う編成です。楽章は二つあり、それぞれ違ったリズムを持っています。 この曲は全体で17分もあるのですが「再現部」らしきものが出てくるのはたった一回だけ。それも、最初に聴いた音楽がかなり変化して出てくるのでほとんど気づきません。人生と同じように、始まり、進み、そして終わるというとても儚い曲になったと思います。一瞬だけ美しく咲き乱れ、すぐに消えてゆく桜の花を好む日本人の感覚と、打楽器組曲の雰囲気は似ていると思います。曲の中のどの時点でもそれぞれのフレーズの終わりを常に意識しているような感じさえあります。 この7月に勉強させて貰うジュリアード音楽院のピアノ科教授、フィリップ・ラッサー先生が僕の打楽器組曲を非常に気に入って下さいました。何度も聞いてしまうと先生は仰っていましたが、それも一見長く思える17分の組曲が実はとても儚い響きを持っているからだと僕は思います。今自分が生きているこの瞬間は、実はとても儚く、貴重な時なのです。それを忘れてただ無下に時間を潰し、一度きりの人生をその辺に捨てるような人間を僕は理解しません。せっかくの人生です、この貴重な時間を楽しんで悔いのないように生きたいものです。
by Alfred_61
| 2005-05-03 19:45
| 日記
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