日本語でこれを的確に示す言葉がないと思うので英語で書いたのですが、ちょっとQuotationについて書こうと思います。英和辞典で調べてみるとこれは一応"引用"ということになるのですが、英語で言う場合はちょっと日本語の"引用"以上の意味があるので、ここで僕が言及しているのは"引用"とは言い切れないと思ってください。 作曲技法の一つに、実はQuotationというものがあるのです。これは実に由緒正しく遙か昔から使われてきた技術なのです。バッハが彼の生前から存在していた単旋律讃美歌のメロディーを引用した曲を沢山書いていたようなのがその例です。有名どころで言うとルターが作った讃美歌"Nun komm, der Heiden Heiland"(いざ来ませ、異邦人の救い主)のメロディーをQuotationという技法でバッハが自作の曲として何曲も作っています。実際、このメロディーは相当に有名だったために数多くの作曲家がQuoteしました。ブクステフーデなどもその一人です。 でも、これって今の時代やったらJASRACとかに訴えられるんですよ~。せっかく良い音楽があるならそれをQuoteしてどんどんその音楽が広がっていけばいいのに、と僕は思うんですけどね、一作曲家として。でも今は音楽がお金儲けの道具になっていますから、仕方がないのです。 いやいや、そんなことが書きたかったのではなくて、自分のアイデアを使うこととQuotationを使うことについて書きたいのですよ。クリエイターには色々なタイプがあって、中には他人が作っている音楽を聴いて、そこから何らかの音楽的要因を"Quote"して自分の曲を作る人もいるわけです。それは別に分かりやすいメロディーや和声進行だけではなくて、雰囲気やテーマでも良いのです。もっと言えば楽器編成、ストリングスを載せるかどうか、ヴォーカルをシャウトにするかどうか、裏声を使うかどうか、ドラムを4ビートにするかどうか、フレーズを4小節区切りにするかどうか、なんでもいいのです。逆に僕のように他人が考えていることと自分の考えていることのズレが気になってQuotationという技法自体が肌に合わずに使えない人もいます。 僕は自分から出てきたイニシャルアイデアを使わないと曲が書けません。でも、人によっては明後日までに曲を書いてくれという依頼を受けてどうしてもアイデアが出せない為に他の人のアイデアを"Quote"して曲をでっち上げてしまう人もいるのです。もちろんそれはビジネス上上手くいくわけですから何の問題もなく、それでお金のやりとりが出来て生活が安定すればそれで問題ないでしょう。でも、音楽としてそれはどうしようもなく質の低い二流品ですよね。いくらクライアントや聴衆が大絶賛しても、音楽家の端くれならば作った時点でそれは感じなければおかしいことです。 Quotation自体はそういう落とし穴のある、扱い方の難しい作曲技法です。上手く使う人は本当に素晴らしい作品をQuotationで作りますが、僕個人はタイプ的にそういうことは出来ません。もちろん大学では勉強としてやらされましたけどね。究極的に言ってしまえば、これだけ沢山の情報が転がっている現代において、ただ視野さえ広げれば関係のない分野から別々のファクターを"Quote"してきてパッチワークのようにそれらを繋げれば、自分自身は全く"創造"という過程を踏まなくても曲を作ることができるんですよね。いや、事実そういう曲って多いでしょう、巷には。大学生活の半分以上を色々な曲を聴くことに費やしてきた僕たちのようなgeekにしか分からないから良いだろうと思って使っていることくらい、聴いたら簡単に分かってしまうのに。 お金になるからとか仕事として上手くいくからとかという次元の前に、音楽家として誇りを持って芸術を作っている自覚を持てなければ、Quotationなんて高度な技術は使うべきではないと僕は思います。この技法は言わば他人の哲学を違う方法で表現し、場合によれば内容を修正してしまうようなことなので、そんなことよっぽどの人格者でないと出来ないのは当然です。そして、それを自己という主体性を持たずに実行するとどうなるかなんて、もう簡単に想像できます。そんなことをしている暇があったら自分を磨くことをすればいいのに、なかなか社会や文化の柵から抜け出すことが出来ないんですよね。ホント、僕はどうしても好きじゃないんですよ。Quotationって。
by Alfred_61
| 2008-03-12 16:58
| 日記
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