決して実際に具現化される音のすべてではない。" ・・・。なんという当たり前過ぎてバカらしくなる言葉でしょう。例えば、ピアノの楽譜で真ん中のドを書いたとすると、ピアニストはドのキーを叩きます。でも、ドを叩いたからといって、その時に出てくる音はドだけではないですよね。 僕は作曲をするときには楽譜上で作っていきますが、決してそこでは書いているオタマジャクシの一つ一つがただそこの音の意味ではないことをすべての音符に対して考えながら作曲します。そりゃあ、MIDIとかで表現するなら、そこにその音符を書いたらその音しか鳴りません。でも、実際のアコースティック世界ではそんなことあるわけないんですね。いくら演奏家が努力した所で、絶対に一つの音はそれ以外の音も出すのです。 じゃあなんの音が出るんだ、ときかれたらもうバカらしくなりますが、例えば共鳴音はどうでしょう。楽器には共鳴というものがあります。例えばギターで一番下の弦を弾いたら、他の弦もその音程に従って震え、音を出します。これが共鳴です。面白い例だと、ヴァイオリンの場合、開放弦の音程(G、D、A、E)の音を別の弦で弾いた場合・・・例えば開放弦Dの音程をその下のG弦で弾いた場合、同じ音だからD弦がかなり強く震え、因みに僕たち音楽家が明らかに違いを感じるほどの共鳴音を出します。 さて、共鳴音は、アンサンブルの場合どうなるでしょう?弦楽四重奏なら少なくとも弦は全部で16本あるんですよ。チェロが弾いた音が第一ヴァイオリンの弦を揺らす、なんて簡単に想像できますよね。バンドだったら、エレキベースの重低音にドラムのシンバルが共鳴する、なんて当たり前の世界です。まあ、こういう理由で、現在良くされている"宅録"なんかでは絶対にライヴ感は出ないのです。因みに、ブースに分かれて個別でライン録りをしたってこの感じは出ません。いくらリズムにグルーヴがあっても、共鳴音が絶対に出ない状況なのですから、言い換えればあるべきはずの音がそこにはないのです。そう、共鳴音が入っているから、昔のDeep PurpleとかJimi Hendrixとかのバンドの録音に味があるのです。 共鳴音のことを無視して、というか考えもせず、曲を書いたところでそりゃあいずれは音の配列や順序の可能性が使い尽くされたり、という本当にバカな考え方が存在するんです。ドはドでしかない、というのは、はっきり言って机の上でしか曲を書いたことのない作曲家のすることで、そもそもそういうレベルの人は作曲家ではなくてただのパズル制作者です。音を所詮は一つの単位としか考えず、凝り固まった偏見で音楽を捉え、しかも例えライヴに行ったとしても共鳴音の音さえ聞き取れない、まあ音楽家と呼ぶにはあまりにもレベルの低い発想です。 さて、共鳴音だけここでは言いましたが、例えばギターの場合に爪やピックが弦に当たる瞬間に音が止まる一瞬の"間"とか、その時に揺れている弦と接触するノイズとか、楽器によってボディーが出す反響上の倍音の数とか、さて、言い始めるとどうなるんでしょうね。それを200人規模のオーケストラで考えてみましょう。しかもそのホールにはストップをすべて開いた大きなパイプオルガンがあるとします。それでもドは所詮ただのドだと言えるのはよっぽどでしょうね。
by Alfred_61
| 2009-12-26 22:17
| 日記
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