若い年齢の音楽、年寄りの音楽、なんとなく世間一般にも個々の感覚は相対的でもそういう概念があるのは誰にも感じられることだと僕は思います。そもそも、若いときの音楽と年をとってからの音楽で何が変わるか、どうなんでしょうか、僕は自分の中でかなりクリアな回答を持っていますが、若い人に年寄りの音楽は理解出来ないでしょうし、逆もまた然りなのではないでしょうか。少なくとも僕は作曲家としてそういう風に感じています。 ジョンとはまたメールのやりとりを続けています。彼にとっても今回の訪日とライヴはとても意味があったようで、帰ってからずっと考え込んでいて一日あたり2時間くらいしか眠れないとか言っていました。まあ、今ではもう少しちゃんと休んでいるでしょうが。僕たちが話していたのは音楽家として我々個人に一体どれくらいの時間が残されているのかということ。 僕は23歳頃、このブログの過去を辿っていけばその頃の記事も出てきますが、死線を彷徨うほど体を壊しました。振り返ってみれば20歳になる頃にとある知人から、大学生で社会的成功を手に入れて責任感とプレッシャーでオーバーワークをして個展を翌日に控えたアトリエで亡くなっているのが見つかったとある画家の話を聞きました。それで釘を刺されていたから、恐らく僕は今まだ生きているのだと思います。あの人の言葉がなければ、きっと僕はあのまま死ぬまで創作にすべてを費やし、魂も何もかも使い切っていたことでしょう。 何故自分が音楽をしているのか、何故自分が曲を書くのか、ろくに動きもしない身体と頭であの頃安静を言い渡されて一人アパートのベッドの上で何度も考えました。体も心も疲弊しきっていたあの頃にその答えを見つけることは出来ませんでした。それまではそんなこと考えずにいくらでも曲が書け、いくらでも人の前で自分の想いを楽器を通して叫ぶことが出来ました。でも、やりたくても体が動かない、自分がやりたい表現が体力的にも精神的にも出来ない、そんな状況を長く経験し、僕は音楽に何度も向き合って自分の答えを探すようになりました。 本当ならばいくら元気で若くても普段道を歩いていて突然不幸にも事故に遭うかも知れません。何が起こるかは分かりません。そんな現実を真実をリアルに思い描くことが出来るのが"年寄り"で、それを知らないが故に考えることもせず生きることが出来るのが"若い"ということなのかな、と僕は思っていたりします。不幸を知っているか、知っているが故に生きているのかそれに飲み込まれるのか、そういうこともあると思います。 僕は身体を壊した後、25歳くらいでオランダに行きました。そこで出会ったとあるバリトン歌手が言っていました。 シェフは料理を作るけど 料理は食べたらそれでおしまい。 でもお前の曲はお前が作ったら お前より遙かに長い時間をこれから生き続ける。」 僕はジョンにこの話をしました。ジョンはどちらかというと演奏家なのですが、彼にとってそれはレコーディングを残すことが近いと言っていました。いずれは肩が上がらなくなるとか、突然心臓が止まって死んだりするかもしれません。事実、ジョンと同い年の打楽器教授が突然亡くなり、ジョンは現在その人の代役として大学で教鞭を執っています。ジョンは、次は我が身かとあの頃何度も言っていました。 僕は先日1曲新曲を作ったのですが、妻がその曲を聴いてまるで高校生の恋愛曲みたいだと言っていました。そんな言葉がなんとなく嬉しかったりもするのですが、どうしても知ってしまってはもう戻れない、そんな部分も必ずあるのです。僕の曲はどうしても心情表現が複雑でそして現実を直視させる残酷さがあると僕は自分でずっと前から自己分析しています。いくら今回の曲が高校生の恋愛曲だとしても、そこには"年寄り"の強制的に襟首を掴んで現実を直視させる威圧感と強迫性があると僕は自分で感じています。まあ、曲を聴いた人がどう感じるかはその人次第ですが。 娘がすくすくと育っていくのを見て、僕は人生のかなりの部分が報われたと感じています。それは言い換えると、僕はもういつ時間切れになっても決して後悔することはありません。僕は相当沢山の曲を書いてきました。もちろん、まだまだ書いていきますが、自分の未来なんて僕に分かるはずないじゃないですか。ただ単純に、その時のことを片時も頭から忘れたことはなく、そしてそれは曲を書いているときもそうなのです。だから僕の音楽は"年寄り"なのでしょうね。日本語のシンボリズムは別として、これは良い悪いの話ではありません。若い方が良いとか年寄りの方が良いとかそういうしょうもない問題ではないんですよね・・・とそういうことさえも若い人々に話をしても詮無いなと思うのです。まあ、僕はどこまで行っても作曲家ですから、言いたいことは音楽で言います。言葉なんて僕は下手くそでしかないので。
by Alfred_61
| 2013-02-01 23:55
| 音の考察
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